テナント工事の保険と誓約書|ビルが加入証明を求める理由と確認ポイント
共有
ビルの着工前提出書類の一覧を見ると、ほぼ必ず「保険加入証明書の写し」「誓約書」が並んでいます。単なる形式的な書類と思われがちですが、これらは工事中に事故や損害が起きたとき、誰がどのように責任を負うのかを決める大切な書類です。
ここでは、ビルが保険加入を求める理由、主な保険の種類、誓約書やビル側の免責規定に書かれている内容と、入居企業として確認しておきたいポイントを解説します。
ビルは労災保険・賠償責任保険・工事(火災)保険への加入を施工会社に求め、証明書の写しを着工条件にしています。誓約書では「工事に起因する損害は一切こちらで処理する」ことを約束し、ビル側は工事中の事故・盗難・火災に責任を負わないのが一般的です。補償額と対象範囲は入居企業も確認しておきましょう。
なぜビルは保険加入を求めるのか
テナント工事では、作業員のけが、共用部や他テナントの設備の損傷、火災、漏水など、さまざまな事故が起こりえます。損害がビル本体や他の入居者に及んだ場合、その賠償額は施工会社の資力を超えることもあります。
たとえば、溶接の火花でダクト内のほこりに着火した、資材を運ぶ台車でエレベーターの扉を変形させた、配管接続の不良で下階の書類やパソコンを水浸しにした、といった事故は実際に起こりえます。こうした損害は数百万円から、場合によってはそれ以上になることもあります。
ビル側としては、損害が確実に補償される状態でなければ工事を許可できません。そのため、施工会社の承認条件として、会社概要・施工実績とあわせて損害保険への加入を求めるビルもあります。保険の加入は「この会社に工事をさせてもよいか」を判断する材料の一つなのです。
主な保険の種類
| 保険 | 主に補償するもの | ポイント |
|---|---|---|
| 労働者災害補償保険(労災保険) | 作業員の業務上のけが・病気 | 建設工事では元請が現場単位・年間単位で加入。下請の作業員もカバーされるか確認 |
| 請負業者賠償責任保険 | 工事中の事故で第三者の身体・財物に与えた損害 | 共用部の損傷、他テナントの什器の破損、通行人のけがなど |
| 建設工事保険・工事火災保険 | 工事中の建物(工事目的物)や資材の火災・事故による損害 | 工事期間(着工からオープン・引渡しまで)をカバーしているか |
| 生産物賠償責任保険(PL) | 引渡し後、施工の欠陥が原因で生じた事故 | 引渡し後の漏水などに備える |
指針書では「工事保険(火災や物品賠償等)、労災保険は各施工業者単位で必ず加入すること」と、元請だけでなく施工業者ごとの加入を求める例もあります。提出様式には、保険の種類、期間、証券番号、保険会社などを記入し、証券の写しを添付するのが一般的です。
誓約書・差入れ書に書かれていること
誓約書(工事施工者承認願書兼誓約書、差入れ書など)には、おおむね次のような内容が書かれています。
- 設計指針書・工事施工指針・館内規則と関連法令を遵守すること
- 承認された実施設計図に基づき、指定期日内に工事を完了すること
- 工事に起因してビルや第三者に損害を与えた場合は、施工者の責任で一切を処理すること
- 行政から是正の指摘を受けた場合は、施工者の責任と負担で是正すること
- 設計基準に違反して他者に損害を与えた場合は、賠償の責任を負うこと
テナント(入居企業)と施工会社の連名で提出し、双方の代表者印を求める様式が多く、「捺印のない書類は認めない(コピー不可)」とするビルもあります。
ビル側の免責規定を知っておく
指針書には、ビル側の免責事項がまとめて書かれていることがよくあります。代表的なものは次のとおりです。
- 入居者の都合による工事遅延で生じた損害は入居者が賠償し、ビル側は責任を負わない
- 申請手続きを適切に行わなかったことで入居者が損害を被っても、ビル側は責任を負わない
- 工事期間中および完了後の事故・盗難・火災・警備について、ビル側は責任を負わない
- 作業中止命令によって工期が延びても、ビル側は責任を負わない
- 工事に起因する第三者災害について、ビル側は責任を負わない
つまり、工事のリスクは基本的にテナントと施工会社の側にある、という前提で契約が組まれています。保険はそのリスクを引き受けるための備えです。
施工会社の承認に必要な書類
保険加入証明や誓約書は、施工会社を「このビルで工事をしてよい会社」として承認してもらうための書類の一部です。指針書によって異なりますが、あわせて次のような書類が求められます。
- 内装工事施工会社選任届(テナントと施工会社の代表者印)
- 建設業許可証明書の写し
- 安全施工体系図・工事組織表(元請から下請までの体制)
- 安全衛生責任者の選任報告書
- 緊急連絡体制表、工程表
建設業許可がない会社や、保険に加入していない会社は、ビル側の承認が得られないことがあります。内装工事を知人の業者などに依頼する場合は、これらの書類をそろえられるかを最初に確認しておきましょう。
入居企業が確認しておきたいポイント
- 保険期間:着工日から引渡し(店舗ならオープン前日)までをカバーしているか。工期が延びた場合の延長手続きも確認します。
- てん補限度額:対人・対物の限度額が、ビルの規模や他テナントへの影響を考えて十分か。
- 下請の扱い:二次・三次の協力会社の事故も補償対象になるか。
- 家具・什器の搬入:家具搬入業者や運送会社の事故は、施工会社の保険とは別になることがあります。搬入業者の保険も確認します。
- 自社の保険:入居後の什器・備品や、テナントとしての賠償責任は、自社の火災保険・賠償責任保険で備えます。入居日に合わせて補償開始日を設定しましょう。
保険証券の写しは、工事の記録と一緒に保管しておくと、万一の際の請求手続きがスムーズです。
保険・誓約書のチェックリスト
- 指針書で求められる保険の種類と提出期限を確認した
- 施工会社から保険証券の写しを受け取り、期間と限度額を確認した
- 下請・搬入業者の事故の補償範囲を確認した
- 誓約書の内容を読み、代表者印の社内手続きを済ませた
- ビル側の免責事項を理解し、社内に共有した
- 入居後の自社の火災保険・賠償責任保険の開始日を決めた